◎ 被嚢(尾索)動物の「生き方」と「系統」を さぐる

    被嚢(尾索)動物亜門は私たち脊椎動物と同じ「脊索動物門」に含まれる動物群で、近年の研究から、現生の無脊椎動物では最も脊椎動物に近縁なグループと考えられ ています。この亜門には、底生生物(ベントス)のホヤの仲間と、浮遊生物(プランクトン)のオタマボヤ、サルパ、ウミタル、ヒカリボヤが含まれます。


単体性ホヤ:岩の隙間から掘り出した
Ascidia kreagra

 被嚢動物はセルロースを合成できることが知られている唯一の無脊椎動物でもあります。ホヤ、サルパ、ウミタル、ヒカリボヤはセルロースを主成分とする皮(被嚢:ひのう)を持っています。オタマボヤはセルロース性の巣(包巣:ハウス)を分泌して餌を集めるのに利用しています。オタマボヤの巣は使い捨てで、使用後の巣は海底へと沈んでゆきますが、これがマリンスノーの元になっているようです。
 ホヤやオタマボヤには発生生物学のモデル生物となっている種もあります。また、浮遊性の被嚢動物は一次消費者として海洋生態系で大きな役割を果たしていることで注目されています。被嚢動物には様々な大きさや形のものがあり、熱帯〜極地まで潮間帯〜深海まで広く分布しています。しかし、多くの被嚢動物はあまり研究されておらず、それぞれの生き方についてはわかっていません。名前(学名)のついていないものもたくさん残されています。


群体性ホヤ:イタボヤの仲間(種名はわかりません)

 私たちは被嚢動物(特に群体性ホヤ)をターゲットに、その生き方と種多様性について興味を持っています。例えば............

  •  サンゴ礁には藻類と共生する群体 性ホヤがいます。共生の仕組みとその多様化について研究を進めています。 (詳細は左サイドバーから)
  •  被嚢動物はセルロースを合成できると特徴を持つことから、共通の祖先から多様化したグループ(単系統群)であると考えられますが、被嚢動物内の系統と進化についてはよくわかっていません。種分類にもまだまだ課題が残されています。 (詳細は左サイドバーから)
  •  付着生物であるホヤは外敵や厳しい外環境を「移動する」ことで避けることができません。そこで、皮(被嚢)の果たす役割はホヤの生存のためにとても重要です。他の無脊椎動物には無い「セルロースの皮」の中には様々細胞もあって、独自の機能を担っています。被嚢の構造と機能を通して、「付着」という生き方を支える組織の多様性を研究しています。