群体性ホヤと藻類の共生とその進化

 熱 帯・亜熱帯の群体性ホヤの仲間には藍藻の仲間と共生するものがあります。この群体ホヤは全てジデムニ科に属するホヤで、世界で 30種くらい、日本でも主に琉球列島や小笠原諸島に20種くらいが知られています。琉球ではまだ名前 (学名)のついていない種もあり、これを新種として記載することも私たちの研究テーマです。

 宿主ホヤとなる種は必ず共生藻を持っているので、このホヤにとって共生藻は生きてゆく上で必須であると考えられます。共生藻がいる場所も、ホヤの種に よっていくつかのパターンがあります。共生藻はホヤの配偶子(卵や精子)には含まれていませんが、親群体内での胚発生中や幼生が群体から孵化する際に、共 生藻を親群体から獲得することがわかっています。共生藻を獲得したり、幼生がこれを運ぶ方法は種によって異なることがわかってきました。「共生藻がどこに あるのか?」そして「どうやって共生藻は次世代に引き継がれるのか?」を様々な共生ホヤについて研究しています。


Trididemnum cyclops  (石垣島)
緑色のプロクロロンが透明な被嚢(皮)を通して見える


Trididemnum miniatum の群体(久米島)
プロクロロンは被嚢の中に埋まっている
 
群体は被嚢内の骨片のために白く見える

 ホヤと共生する藻類のうち最も代表的なものはプロクロロンと呼ばれる単細胞生の藍藻です。プロクロロンは高等植物と同じ光合成色素を持つユニークなもの で、ホヤ以外からは見つかっていません。プロクロロン以外の藍藻と共生する種もあり、糸状の多細胞性藍藻と共生するホヤもいます。共生する藍藻は様々な抗 生物質などを生産するので、化学・薬学の分野から注目されています。

 太陽光は藻類が光合成を行うために必要ですが、これには有害な紫外線も含まれています。宿主ホヤは透明な皮(被嚢)の中に、紫外線だけを吸収する物質( MAA: mycosporine-like amino acid)  を含んでいます。しかし、後生動物は MAA の合成ができないと考えられているので、宿主ホヤは共生藻が作ったMAAを被嚢に蓄えて紫外線防御を行っているようです。

 ジデムニ科のうち4属で共生ホヤは知られていますが、それぞれの属では共生藻を持たない種が多数含まれているので、ホヤと藍藻の共生はそれぞれの属で何 度か独立に成立したと考えられます。このことは、共生する藍藻や、共生藻の分布様式と世代間伝搬様式が多様であることとも一致します。分子系統学的解析で も、このことは支持されますが、プロクロロンと宿主ホヤの間には種特異性や地理的な特異性は認められません。